ESPの限界とModified ESP（２）
2020/5/15 2020/12/26復元
『ブロックが上手くない人ほどESPはよく効く』
衝撃の仮説を立てましたが、これはいったいどういう事なのか。
これを紐解くヒントは、実はその時すでに出ていました。
Mid-point transverse process to pleura block（MTPブロック）です。 →Pubmed
MTPブロックは、Anaesthesia (2017:721230-6) に発表されたもので
上肋横突靱帯（SCTL）を貫かなくても、傍脊椎腔へ薬液が入るよ（傍脊椎ブロックになるよ）というものです。
論文の図を下に示します。
図の×印のところですね。
傍脊椎腔に薬液を入れるだけなら、SCTLを貫かなくてもよいというのです。
しかし、傍脊椎腔内での薬液の広がりは１〜３椎間程度と少ないので
複数個所の施行が必要と書かれていました。
すごい内容だと思います。でも、当時はそれだけでした。
傍脊椎ブロックができるエキスパート達にとっては、あえてここで注入する意味はないですし
ESP信者にとっても、あえて広がりの悪いMTPを選択することなど無意味でした。
おそらく論文の著者らも気づいていなかったでしょう。
この論文の本当の意味に世界が気付き始めるのは、それから2年先のことになります。
さて、話をもどしてESPブロックですが
筆者が書いた ペインクリニック別冊秋号 Vol.39 の図を示します。
我ながらキレイなESPブロックですね。
針もしっかり見えていて、横突起と脊柱起立筋の間にキレイに薬液が広がっています。
でも、これではダメなのです。
こんなキレイなESPブロックでは、前枝領域まで効かせることはできません。
傍脊椎腔にはほとんど入らないのです。
どうやってらESPの効果が上がるのか。最大の悩みでした。
ここで再び仮説に戻りましょう。
『ブロックが上手くない人ほどESPはよく効く』
効果が強く得られているESPブロックは、実は投与している場所が違うのではないのか。。。
論文に書かれていることに忠実に、キレイにブロックをしていましたが
それをあえてブチ壊すって、思ったより難しいです。
ESPが効くといっている人たちは、
そして海外の先生たちは、
もしかしたらエコーでちゃんと針先が描出できていないのではないのか
もしかしたら横突起の上ではなく、側面に針をあてているのではないのか
もしかしたらちょっと針が深く刺さっているのではないか
（これホントひどい事言ってると思わないでね）
もしそうだとすると
そこはどこなのか・・・
気づきましたか？
そうですここで価値を再認識されるのがMTPブロックです。
ちょっと深く針がささってしまったら
それはMTPブロックと同じ位置になるではないですか！
MTPブロックの後、MTPと似たブロックがでてきます。
まずは Costotransverse block (Acta Anaesthesiol Scand 2019, 63:1231-8)
そして STIL plane block(J Clin Anesth 2020, 60:76-7)
正直な感想として・・・
やり過ぎですよね。。。
MTPと同じじゃないですか。
角度とかは変わってますけどね・・入れているところは同じです。。
Costotransverse blockについては、研究の実施期間がもしかしたらMTPとかぶっているかもしれないので、まぁいいかと思いますが
Subtransverse process interligamentary （STIL） plane blockはねぇ・・・ちょっとね・・・。
STIL plane blockを発表したグループは、TAPAブロックを発表したグループなんですよ。
TAPAブロックはすごかったのになぁ。
まぁ、世の中思うことは同じみたいで
この論文、のちにLetters to editorでボッコボコにたたかれます。
まず『そもそも、そこPlaneじゃないから！！Planeの意味わかる？』
からはじまって、まぁひどいものでした。
それはいいとして、
つまり脊柱起立筋面よりも深い位置
肋間筋とか肋骨挙筋とか結合組織とかがあるこの位置に注入することで
傍脊椎腔に薬液を配達することができるわけです。
この部分はのちに
Thoracic intertransverse tissue complex (TITC)と呼ばれるようになります。
よく効くESPは、このTITCに注入されていたのではないか。
これが、あの仮説の解となります。
そしてこのようなブロックをModified ESPと呼ぶことがあります。
※ あくまで一部の人がそう呼んでいるというだけで、世界的に統一された見解ではないです。筆者はそう呼んでいます。
実は、TITC以外にも傍脊椎腔に薬液をとどけられる場所が存在します。
筆者はこれを Costotransverse Notch (CTN) Block として発表しました。
→ J Clin Anesth 2020 DOI: 10.1016/j.jclinane.2019.109630
考え方は一緒で、『脊柱起立面よりちょっとだけ深い部分』です。
Costotransverse Notchは筆者がつくった造語です。
肋骨と横突起の連結部がつくる凹みのことです。
上記論文の写真を供覧します。Notch（CTNと書いてあるところです）が、脊柱起立筋面よりも若干深い位置にあるのがわかりますね。
ここは横突起と肋骨の関節となりますが
外側肋横突靱帯でぐるぐる巻きになっています。
この靱帯の中に注入すると、効果的に傍脊椎腔に薬液を配達できます。
論文では、ESPでは色素は傍脊椎腔に入らないけど、Notchに投与すると傍脊椎腔が染まるという
Cadaver Studyの結果を載せているので興味のある方はご覧ください。
臨床においても、このブロックはよく効きます。
傍脊椎ブロックと同等の効果が得られます。
しかし！
このNotchですが、人によってすごく狭い人もいますし、
そのために施行難易度も高めです。
靱帯に囲まれた中に入れるので注入圧も高いです（太めのTouhy針で行うとだいぶ良いですが・・）。
正直、使いやすいブロックではありません。
自分で言うのもなんですがCTNブロックをするくらいなら
別のブロックがいいです。
でも、関節内投与が傍脊椎ブロックになるのですから
学問的に重要と思います。
のちにネットサーフィンをして見つけたのですが
ペインクリニックの分野で、肋横突関節の痛みをとるために
この位置に局所麻酔薬を注入するという論文が韓国からでてました。
その論文の局麻注入量は非常に少量であり
当然ですが傍脊椎腔に薬液が到達するという事には触れられていません。
とにかく
脊柱起立筋面よりも、わずかに深い位置で注入する手技
MTPブロックやCTNブロックでは
薬液を傍脊椎腔に投与できます。
これがModified ESPの始まりのお話だと思います。
次回、ESPの限界とModified ESP（３）ではこれらのブロックが
いかに効果的に傍脊椎腔に薬液を投与できるのかについて述べていきます。
役立つリンク集
関連ページ
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