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ESPの限界とModified ESP(3)

2020/5/20 追記2020/7/19 2020/12/26復元

 

 

 

 

これまで

 

ESPの限界とModified ESP(1)ではESPブロックの限界について

 

ESPの限界とModified ESP(2)ではModified ESPについて述べてきました。

 

 

 

 

今回、ESPの限界とModified ESP(3)では

 

 

Modified ESPがいかに効率よく傍脊椎腔に薬液を配達できるかについて述べていきます。

 

 

 

 

まずおさらいですが

 

 

このサイトでいうModified ESPは、ES planeよりも少しだけ深く針を刺すブロックをいいます。

 

 

その部分は、Thoracic intertransverse tissue complex (TITC)と呼ばれ、

 

 

肋間筋や肋骨挙筋やらがある部分に筋注されることになります。

 

 

その主なブロックがMid-point transverse process to pleura block(MTPブロック)です。

 

 

そしてついでに、筆者の報告したCostotransverse Notch Block(CTNブロック)についても述べていきます。

 

 

 

 

これはJ Clin Anesthに投稿した内容ですので

 

 

興味のある方は、そちらもご参照ください。 → Pubmed

 

 

 

 

これから、MTPブロック、CTNブロック、ESPブロックを実際に施行した際のエコー動画を供覧します。

 

 

「胸膜の落ち込み」に注意しながら見てください。

 

 

なお、この動画は論文用に作成したものなので英語です。

 

 

結局、論文には「動画なんていらねーよ」って言われてしまったので、これが初公開です。

 

 

あと若干・・・だいぶ? 動画の輝度が低くて見にくいです、あらかじめごめんなさい。

 

 

 

 

まずは、MTPブロックからです。

 

 

針の先端が見えにくいですが

 

 

ちゃんとSCTLの上の筋肉内に注入しています。

 

 

注入を開始するとすぐに壁側胸膜が落ち込んでおり

 

 

傍脊椎腔へ薬液が投与されたことがわかります。

 

 

薬液は傍脊椎腔へもES planeの方へも流れていますね。

 

 

 

 

つづいて、CTNブロックです。

 

 

こちらは横突起と肋骨が作るNotchに

 

 

Touhy針のベベルを下向きにして注入しています。

 

 

こちらも注入するとすぐに胸膜が落ち込み

 

 

傍脊椎腔へ薬液が投与されたことがわかります。

 

 

MTPと同様に、薬液はES planeにも広がっています。

 

 

 

最後にclassic ESPブロックです。

 

 

ここではまず矢状断のViewから始まります。

 

 

横突起上にTouhy針をもっていき、少量の薬液を注入することで正しくES planeに針先があることを確認します。

 

 

その後、針はそのまま横突起上においたままで

 

 

プローブを90度回転させ、PVB平行法のようなViewとし、針の直下の胸膜を描出します。

 

 

ここで薬液を注入しています。

 

 

薬液はES planeに広がるものの、胸膜には何の変化もないことがわかります。

 

 

 

 

以上3つの動画をみていただきましたが

 

 

このように、classic ESPブロックでは薬液を注入しても

 

 

明確な壁側胸膜の落ち込みを認めません。

 

 

しかし、ES planeよりも深く針をさすMTP、CTNの両ブロックでは

 

 

薬液の投与するとすぐに胸膜の落ち込みが認められ

 

 

薬液が傍脊椎腔へ配達されたことがわかります。

 

 

 

 

MTPブロックの動画をみていただくと明確ですが

 

 

薬液は傍脊椎腔だけでなくES planeの方にも広がります。

 

 

そこだけ切り取って見てしまえば

 

 

ESPブロックとなんら変わりません。

 

 

しかし、その針先はTITCの中にあり、薬液は傍脊椎腔にもひろがっています。

 

 

 

 

『ブロックが上手くない人ほどESPはよく効く』

 

 

という最初の仮説はつまり・・・

 

 

『エコーで針先はうまく描出できなかったけど、

 

 

ES planeに薬液が広がったので、まぁいいか〜!

 

 

本人はESPブロックを行っていたつもりなんだけど、

 

 

でも実はModified ESPになっていたんだよ』

 

 

という状態です。

 

 

わかっていただけたでしょうか?

 

 

 

 

さて、ここで気になるのが

 

 

MTPブロックのオリジナルの論文です。

 

 

『MTPブロックは傍脊椎腔への薬液浸潤は少ないので複数個所施行すべき』

 

 

と書いてあります。

 

 

本当でしょうか?

 

 

筆者の個人的な経験に基づく意見ですが

 

 

MTPブロックやCTNブロックは、1か所に注入しただけでも結構広がると思っています。

 

 

筆者のCTNブロックの論文を見ていただけたらわかりますが(→ PubMed)

 

 

3椎間は広がってますね。

 

 

 

 

 

MTPブロックもTITCへの刺し方が甘ければ

 

 

ほとんど局所麻酔薬がES planeに逃げてしまいますが、

 

 

SCTLギリギリで注入すれば

 

 

単回投与でもかなりの量を傍脊椎腔へ入れることができます。

 

 

傍脊椎腔での薬液の広がりは

 

 

注入圧も少しは影響するかもしれませんが

 

 

主に投与量で決まるのだと個人的に思っています。

 

 

 

 

 

当院では、乳腺手術を全麻+ブロック(もちろんフェンタニルなし)で行っていますが

 

 

このブロックをMTP(単回投与)にしても

 

 

しっかり鎮痛が得られていますので

 

 

そのくらいの効果はあるものと考えます。

 

 

 

 

当院では、傍脊椎ブロック(PVB)もMTPブロックもCTNブロックも

 

 

基本的に0.375%アナペイン25mLを投与します。

 

 

20mLシリンジで投与できるMAX量を用いています。

 

 

(最近30mLシリンジが入ったので、今後増やすかもしれません)

 

 

Modified ESPにこの量を使用すると、上手に投与さえすれば

 

 

傍脊椎ブロックに勝ることはないにせよ

 

 

ほぼ同程度と言っていいほどの効果を得ることが可能です。

 

 

 

 

とはいえ、ブロックの効果範囲や確実性をいうなら

 

 

何の障害もなく直接傍脊椎にいれるPVBが最強です。

 

 

その強さを感覚的に記号であらわすと

 

 

PVB>MTP=CTN>>>ESP

 

 

こんな感じです。

 

 

 

 

ただ、Modified ESPにはPVBに勝る利点が1つあります。

 

 

PVBは、内肋間膜やSCTLを貫くときに必ず血腫ができます。

 

 

血腫の大きさは人によります。

 

 

PVBの後、胸腔鏡で手術する場合には必ず術者に確認してもらっていますが

 

 

これまで100%血腫ができています。

 

 

これは凝固障害のある患者にPVBを避けるべき理由の1つになります。

 

 

しかし、SCTLや内肋間膜を貫かないMTPブロック等では

 

 

この血腫ができません できにくいです(下図参照)。

 

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凝固異常がある患者に対しては

 

 

PVBよりもMTPブロックが安全であるといえるでしょう。

 

 

 

 

ではModified ESPのターゲットとなるTITCですが

 

 

これはどこまでを指すのでしょうか?

 

 

MTPブロックの論文に照らして考えると

 

 

横突起と肋骨が関節をつくるあたりとなるでしょうが

 

 

正直にいうと

 

 

1〜2センチ外側にずれても、内側にずれてもほとんど同じです。

 

 

傍脊椎腔に近いところの筋肉内(結合組織内)に注入すれば

 

 

だいたいどこでも傍脊椎腔へ入ります。

 

 

 

 

 

ここで、肋横突起関節よりも1センチ程度内側(背骨側)の辺りについて考えてみましょう。

 

 

実はこの位置で、エコーのない時代の麻酔科医たちは

 

 

すでにModified ESPを行っていました。

 

 

何かわかりますか?

 

 

 

 

そう、PVBです。

 

 

エコーがなかった時代のブラインドPVBをご存知でしょうか?

 

 

針をとりあえず、横突起にあてて、頭側/尾側へウォーキングし

 

 

横突起がなくなったところから

 

 

ロスオブレジスタンスもしくは、1センチ程度針を奥へ進めて薬液を投与する。

 

 

(横突起のあと、肋骨に当てる方法もありますが、今はややこしくなるので考えないでください)

 

 

この部分は、傍脊椎腔が前方へぐっと落ち込んでいく部分です。

 

 

そのぶんTITCにあたる部分も多く(分厚く)なります。

 

 

ロスオブレジスタンスをすれば傍脊椎腔に到達したことがわかるでしょうが

 

 

ロスオブをせずに、針をとりあえず深くすすめて注入しても

 

 

そこが傍脊椎腔であろうがなかろうが

 

 

傍脊椎ブロックとして機能します。

 

 

実は今述べたこの手法、Costotransverse Foramen Blockとして報告されました(→ この記事も参照してください)。

 

 

 

 

 

つまり、傍脊椎腔に到達しないブラインドPVBは

 

 

今でいうところの、Modified ESPに他なりません。

 

 

昔の人たちってすごかったんですね。

 

 

 

 

 

思考をさらに内側(背骨側)へ移動してみましょう。

 

 

上記のブラインドPVBの投与位置をどんどん内側(背骨側)にしていくと

 

 

やがて椎体の後面に針があたりますね。

 

 

これがRetrolaminar blockです。

 

 

レトロラミナブロックも傍脊椎腔に薬液をいれる手技として少し前に注目されましたね。

 

 

オリジナルのレトロラミナブロックは、椎体後面に針をあてて投与しますが

 

 

これも、若干外側方向へ針をずらして

 

 

なるべく傍脊椎腔へ近い位置で薬液を投与すると

 

 

とても良く効きます。

 

 

 

 

 

 

どうでしょうか。

 

 

全ての話が1つに繋がりましたか!??

 

 

いままで点で見ていたものが、線になりませんか?

 

 

昨年の夏以降、こんな感じで点と点が線につながってきて

 

 

今やっと自分が出そうとしていたデータが全て出し終わりました。

 

 

欧米のレヴュアーの中にはESPを否定しようものなら

 

 

問答無用でボツにする人もいて苦労しましたが・・・

 

 

 

 

 

さて、ESPの限界とModified ESPのお話は

 

 

次回(4)話が最終回です。

 

 

最終回はModified ESPの本当の姿を暴いていきます。

 

 

→ ESPの限界とModified ESP(4)

 

 

 

 

 

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