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解剖学を無視したら・・・それは幻想

2022/10/23

 

 

ここで述べるのは、解剖学を無視して生まれた神経ブロックたちです。
(1) Interpleural block
(2) ESP block
(3) QLB block
(4) TAPA block

 

 

なぜか・・・というか、当然といえば当然なのか、これらすべて体幹のブロックですね。

 

 

上肢とか下肢は、明確に太い神経が走ってますからね、誤解や幻想が起こりようがないのでしょう。

 

 

多くの筋肉が行き交い、幻想が生まれやすい体幹のお話です。

 

 

 

 

Interpleural block

 

 

これは40年ほど前、1980年代にこの世で最初に生まれた空想の産物です。

 

 

読んで字のごとく、「胸膜間ブロック」

 

 

臓側胸膜と壁側胸膜の間に薬液を投与するという・・・・おお、なんという画期的な!!

 

 

ぼ〜〜っと効いてると「おお!すごい!!」って叫びたくなっちゃいますが

 

 

良く考えるとわかってくる・・・

 

 

そこは胸腔内。

 

 

何をブロックしたいんでしょうか?局麻薬で胸水でも作りたいんでしょうか?

 

 

ブロックの効果は高かったようで・・・まぁ、傍脊椎ブロックやっていたんでしょうね。

 

 

数年前まで、Interpleural blockって検索するとYou Tubeに動画がありましたが、削除されてます。

 

 

 

 

Erector Spinae Plane Block

 

 

前述のInterpleural blockがRIP1 block、このESP blockがRIP2 blockとまで揶揄されています。
(RIP=rest in piece 安らかに眠れ)

 

 

数年前に一世を風靡したブロックですね。

 

 

いまだに世界中にはESP信者が多くいます。

 

 

その証拠に、「VATSの鎮痛の第一選択はPVBまたはESP」なんですからね(→VATSの区域麻酔)。

 

 

こわいね・・・効かないブロックを第一選択にしちゃうなんて。

 

 

 

日本ではだいぶ「ESPは効かないという事実」が広がってきましたよね。

 

 

最近では、どうどうと「ESPは効かない」って言っても

 

 

「は!?先生が下手なんじゃない?大丈夫?」って言われなくなってきた。

 

 

ほんとに言われたことあるんだよ、昔・・・ひどくない?

 

 

 

上手な人が、ちゃんとES-planeに薬液を入れたら、後枝にしか効きません。

 

 

他の記事で詳しく述べてますが、『効果のあるESP』とされているブロックはMTPブロックでしょうね。

 

 

へたくそなESPは良く効くんですよ、針先が見えてなくて、肋間筋までブッ刺すとね・・・MTPブロックになるので。

 

 

 

ESPがどうやって傍脊椎腔に入るかというと

 

 

「脊髄神経後枝や伴走する血管が通る孔を通って入っていく」と説明されていました。

 

 

解剖学を無視してますよね。

 

 

そんな薬液がバンバン通るほど、でっかい孔あいてませんて。

 

 

確かに神経や血管が貫きますけど・・・そこには結合織というものが。

 

 

外国には「呼吸による胸郭内の陰圧が作用して、薬液を引き込むんだ」って言ってた先生もいますが

 

 

呼吸するたびに、背中がスースーしそうですね。

 

 

 →Erector Spinae Plane Block
 →Erector Spinae Plane Block(2)
 →ESPBはRIPブロックです
 →ESPの限界とModified ESP(1)
 →ESPの限界とModified ESP(2)
 →ESPの限界とModified ESP(3)
 →ESPの限界とModified ESP(4)

 

 

 

 

Quadratus Lumborum Block

 

 

QLBブロックも幻想的な要素の強いブロックでした。

 

 

腰方形筋付近(もしくは腰方形筋内)に投与した薬液が、腰方形筋を伝って、胸腔内に入り傍脊椎ブロックに!

 

 

最初はすごい!!って思いました。

 

 

ごくたまに、凄く効いたようなこともあったんですけど・・・。

 

 

でも、QLB1(投与位置や薬液の広がりによってQLB2も入るかな?)って、

 

 

針の位置的に、後方TAPと同じ位置に投与されてしまう場合もあり

 

 

後方TAPって下腹部の鎮痛効果がとても高いので

 

 

後方TAPのような効果が得られることもあるのかと思います。

 

 

名古屋大のS先生が論文で出されているように、QLBは外側皮枝にしか効かないというのが

 

 

正しいように思います(→腰方形筋ブロック:本当に効くのか?(2))。

 

 

QLBの原型ともいえる後方TAPの大家McDonnellさん自身も

 

 

ピンプリックで外側皮枝領域だけ効果があったことを述べています(→腰方形筋ブロック:本当に効くのか?(3))。

 

 

QL筋周囲は、様々な筋膜が重なっているため、もう少し詳細な検討が必要なのかもしれません。

 

 

ただ、腸骨付近の腰方形筋周囲に投与した薬液が、都合よく胸腔の方向に広がって

 

 

横隔膜を越えて、臓側胸膜を越えて、傍脊椎腔へって

 

 

どれだけのハードルをクリアしないといけないか・・・

 

 

おちついて考えてみると、とんでもないですよね。

 

 

 

腰方形筋自体は以下のような筋肉であり

 

 

 

起始:腸腰筋靭帯と後腸骨稜の内縁
停止:第12肋骨下縁の内側半分と腰椎横突起の先端
(https://www.stroke-lab.com/speciality/32465)

 

 

腰方形筋を包む筋膜は腰椎横突起には結合しますが

 

 

胸部の停止位置は第12肋骨下縁。

 

 

傍脊椎腔には接続しないのです。

 

 

MRIなどで薬液がはいってる!っていう論文があるので全否定はできませんが

 

 

どこを通って、傍脊椎腔へ入るのか全く不明です。

 

 

 

 

TAPA block

 

 

TAPAブロックはとても効果の高いブロックです。

 

 

近年、TAPAブロックはブームですし、疑いようのないブロックです。

 

 

しかし、TAPAブロック自体は盛りに盛られたブロックだと思います。

 

 

『TAPAブロックのウソとホント』『外腹斜筋面(EXOP)ブロック』でも述べていますが

 

 

TAPAブロックはT6〜T12の脊髄神経前枝に効果を示すブロックです。

 

 

その効果はいわゆるM-TAPAと呼ばれるブロック(TAPA block 1st injectionのみを行う)によるもので

 

 

TAPA block 2nd injectionなどは全く効果がないことを我々は示しました(Can J Anaesth 2022;69:1203-10)。

 

 

 

もともと、TAPAブロックは

 

 

T4〜L1の脊髄神経前枝・外側皮枝に効果があるかのように発表されました。

 

 

これをそのまま信じてしまうと危ないです。

 

 

 

まず、TAPA 2nd injectionは全く神経の走っていない面に投与しているため効果はありません。

 

 

外側皮枝が肋間筋・外腹斜筋を貫く位置まで薬液が広がるのならば効果があるかもしれませんが

 

 

それは起こらないことを、我々のボランティアスタディは示しています。

 

 

 

つづいて、M-TAPA(TAPA 1st injection)を見ていきましょう。

 

 

M-TAPA自体がとても効果があるように歌われていますが

 

 

前枝(T6-T12)以外は幻想でしょう。

 

 

M-TAPAの投与位置は肋骨弓付近、内腹斜筋と腹横筋の間です。

 

 

胸腔内を走行した脊髄神経前枝がそこを通って腹部へ入るのですから、そこは納得です。

 

 

 

さて、T4〜T5や外側皮枝のブロックは起こるのでしょうか?

 

 

腹横筋の起始・停止を調べてください。

 

 

第6〜12肋軟骨内表面に起始しますよね。

 

 

胸腔方向は閉鎖されているんです。

 

 

脊髄神経前枝は、その隙間を縫って入ってきます。

 

 

なんかESPの時みたいですね。

 

 

さらに脊髄神経前枝は、その前には最内肋間筋と内肋間筋の間を走行してきたわけです。

 

 

胸腔内、肋間筋内へ入るにはここにハードルがたくさんあることが分かりますね。

 

 

 

また、腹横筋は第6〜12肋軟骨に起始するわけですから、T4とかT5の前枝に効くにはどうしたらいいのでしょうか?

 

 

そもそもT4やT5の前枝は胸骨の側から顔をだすような神経です。

 

 

腹部や腹横筋なんかとは、関わりすらありません。

 

 

T4やT5に作用するには、薬液が胸腔内を飛ぶか、肋骨をすり抜けるなどしなければ起こりえないのです。

 

 

100歩ゆずって、M-TAPAの薬液が壁側胸膜も越えて

 

 

胸腔内のT6〜T12の前枝の走行面まで到達したとしましょう。

 

 

外側皮枝の分岐位置まで

 

 

スカスカの最内肋間筋の隙間(→傍脊椎腔はどこまで広がっているのか を参照)から漏れ出すことなく、薬液が到達するのでしょうか?

 

 

難しそうですよね。

 

 

なお、壁側胸膜だけを越えて、傍脊椎腔へ達したという線は

 

 

後枝がブロックされていないのでありえません。

 

 

(傍脊椎腔へ入れば、前枝・外側皮枝・後枝すべてがブロックされるはず)

 

 

 

 

ちょっと難しくなりましたが

 

 

解剖学的根拠を越えた薬液の移動は起こらないのです。

 

 

 

 

 

このように4つのブロックについて

 

 

解剖学的視点から論破してきました。

 

 

まさに、体幹は神経の走行や筋肉が入り組んでいて『わかりづらい』ので

 

 

幻想が生まれやすいのですね。

 

 

どのブロックもそうですが、真実はひとつなので

 

 

ゆっくりと明らかになっていくはずです。

 

 

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