胸壁の神経ブロック/どれを選択すべきか
ここでは、PECS II ブロック、Serratus plane block(original SPB)、Serratus-intercostal plane block(SIPB/SPB)について
それぞれどう使い分けるべきなのかについて述べたいと思います。
それぞれのブロックの薬剤注入位置については →こちらの記事 を参照してください。
(1) PECS II ブロック
他の2つのブロックに比べて、体位変換もほとんど必要とせず、注入位置も明確なので
非常に行いやすいブロックです。
しかし、PECS II ブロックの適応については、→動画のページ でも述べましたが
乳腺の手術で考えると、C領域の手術に限定する方が安全かと思われます。
穿刺位置がかなり頭側(腋窩付近;小胸筋が描出できるところ)なので
局所麻酔薬30mLを注入してもD領域の末梢側
Thでいうと6とか7といった辺りまでは広がらない場合があるためです。
また腫瘍の位置によっては、original SPBやSIPB/SPBが躊躇われる場合があり
そのような場合にもPECS II ブロックは有効です。
(2) original SPB
original SPBと書きましたが、これは前鋸筋の表層に局所麻酔薬を注入するものです。
Blancoらの論文→Anesthesia (2013) 68; 1107-13. にあるように、
この位置で注入する方が、局所麻酔薬の広がりがスムーズです。
オリジナルの論文では広背筋が見える位置で、広背筋と前鋸筋の間に注入していますが
広背筋が見えている必要はありません。
広背筋のない位置での前鋸筋は、その表層は皮下脂肪で覆われます。
そのため筋間に注入するSIPB/SPBに比べると局所麻酔薬の広がりが良いのは想像がつきます。
注入位置から上下3肋間くらいは鎮痛域が得られます。
そのため、腋窩郭清がある症例ではSIPB/SPBよりも
確実に薬液を広げることができる点で有効性が高いと考えます。
original SPBの適応自体はSIPB/SPBと同じですので、テキストを参照してください。
ただ、皮下脂肪と前鋸筋の境が分かりづらい症例も多いので穿刺の時は注意しましょう。
(3) SIPB/SPB
これはテキストで紹介しているブロックで、前鋸筋を越えて、前鋸筋と肋間筋の間に注入します。
(4)でも述べますが、この位置は脈管構造が少なく、安全性が高いです。
その反面、筋間に注入するので局所麻酔薬の広がりについては若干劣ります。
薬剤の広がりと穿刺位置の決定についてはテキストをご参照ください。
original SPBと比べ穿刺位置などの選択には注意が必要ですが、
注入位置は明確で、肋骨を目標に穿刺すれば胸腔穿刺などはまず起こりません。
(2)でも述べたように、腋窩郭清の部位まで確実に効かせたい場合は
original SPBの方が何も考えなくて良いので簡単かもしれません。
(4) 各ブロックの合併症について
まずは、長胸神経麻痺(翼状肩甲)についてです。
長胸神経は前鋸筋の表層を走行しています。
そのため、SIPB/SPBに比べて、PECS II ブロックやoriginal SPBで、その可能性が高まります。
しかし、周術期において一時的な長胸神経麻痺が、患者の生活に影響するのか
という点は疑問です。
「壁に手を付いて前に倒れてみましょう」なんて事はしないでしょうから。
続いて、脈管構造についてですが、
PECS II ブロックやSIPB/SPBはその点は比較的安全と言えます。
注意すべきはoriginal SPBです。
前鋸筋の表層は、長胸神経だけでなく
外側胸動脈や肋間動脈外側皮枝が走行しているので注意が必要です。
特に、広背筋と前鋸筋に挟まれている辺りなどが一番危ないのではないかと
思うわけです。
どのブロックを選択するかは自由ですが
合併症には十分気を付けて行いましょう。
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